韓国の家庭委託保護制度(里親制度)の概要

Outline of Foster Care System in South Korea

 

(第2回全国里親研究協議会第6分科会資料(2006930日、横浜市))

(The Material for the 2nd Foster Care Forum in Yokohama, Japan)

 

 

 ライター 村田和木(むらた・かずき)

Ms. Kazuki Murata, Japan: 2006.9.30

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1 歴史

 

1960年代初頭 当時、劣悪だった児童養護施設の環境から子どもを保護するため、「ホルト児童福祉会」や「キリスト教父母会」などの養子縁組あっせん団体(民間)が、要保護児童を養子縁組が決まるまで家庭に預けて一時的に養育してもらう「家庭委託」を初めて実施した。主体となったのは、それらの民間団体で働く外国人のソーシャルワーカーたち。

  ちなみに韓国では、養子縁組を「入養」、里子養育を「収養」と呼ぶ。里親は「収養両親」または「委託父母」。

 

1961年 児童福利法が制定される。

 

1972年 児童福祉予算を削減するために養護施設を減らす政策を取る ⇒ 国際養子縁組の増加

 

*1970年代 「漢口の奇跡」と呼ばれた経済成長とともに国民の貧富の差が拡大し、貧困家庭が増える ⇒ 未婚での出産や捨て子の増加

 

1981年 児童福利法を児童福祉法に改正。

 国内の人口増加を抑えるため、海外移住を推し進める「移民門戸開放政策」を打ち出す。

⇒ 国際養子縁組が爆発的に増加、海外養子は毎年6,000〜8,000人に。

 

1985年 政府は「家庭委託保護制度」の導入を試みる。1991年から全国に広げる計画で、

同年5月〜 仁川(インチョン)と光州の2都市において家庭委託保護モデル事業を実施。

 しかし、委託児童と委託家庭に対する十分な財政的支援がなかったため、モデル事業は失敗に終わった。この失敗によって、家庭委託保護制度の導入は韓国では無理という認識が広まった。その代わり、政府は、社会的養護が必要な子どものうち、施設に行くことを拒んだり、施設よりも地域で暮らすほうが望ましいと判断される子どもたちのために「少年少女家長世帯」(または、「少年少女家庭世帯」)という制度をつくった。これは、親がいない、または、精神的・身体的な障害を持っている親と暮らす子どもが家長となり、生活保護制度の中で経済的な支援を受けられるようにしたもの。

 

 

1989年11月20日 「子どもの権利条約(UN CRC)」が国連総会で採択される。

「子どもの権利条約」は、世界中のすべての子どもたちがかけがえのない子ども時代を豊かに過ごし、新しい世界を担う大人へと成長することを願って、つくられた。

2003年現在、アメリカ合衆国とソマリアを除くすべての国連加盟国が締約国になっている。

 

 

1990年 韓国福祉財団は、ソウル・釜山・大田の3ヵ所で家庭委託保護のモデル事業を試みたが、うまく行かなかった。

 

同年9月 国連子どもの権利条約に加入(署名の手続きをしないで、すぐに条約を受け入れること)。翌91年 署名をして批准(国会の承認を受けて、条約の受け入れを文書で国連に伝えること)。*日本は94年4月に批准。世界で158番目。

 

 国連子どもの権利委員会から、子どもの権利保障のための制度的改善措置の勧告を受ける。

 

   指摘された事柄:@要保護児童の保護方法が施設中心である。

            施設養護の問題点:子どもの施設病、情緒不安定、安全管理の不備

            *職員が子どもを虐待した証拠が上がった後、警察署がいくつかの児童養

             護施設を閉鎖せざるをえなくなった。

           A家庭で暮らせない子どものための家庭保護サービスの不備

           B少年少女家長世帯制度の不合理性

           (保護者なしで生活する子どもたちに対する心理的・社会的な支援がない)

 

1995年 「入養(養子縁組)促進及び手続きに関する特例法」を制定。国際養子縁組を抑制し、国内養子縁組を促進⇒ 海外養子は年間2000人前後に

 

同年 パク・ヨンスク女史が個人的に家庭委託保護活動を始める。毎年35〜40名の子どもたちを約30家庭に委託。委託家庭は無料で子どもを養育した。

彼女の活動は社会的な注目を浴びたが、その一方で、児童養護施設の経営者から大きな圧力を受けた。しかし、子どもの権利条約の第20条(家庭環境を奪われた子どもの保護)によって、施設で暮らす子どもの数を減らす政策を訴えることができ、国内外の子どもに関する団体との連帯も可能になった。パク・ヨンスク女史の献身的な努力により、家庭委託保護は「子どもを中心とする社会的養護の一形態である」という考え方が普及し、グループホームと並んで家庭の代理養育の形として社会に認知されるようになった。

 

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参考1 第20条(もし家族と暮らせなかったら?)

 

1 少しのあいだだけ、またはずっと家族といっしょにくらせなくなった子どもや、またはその子にとって、家族から離れたほうがいいという子どもは、国にとくべつに護(まも)ってもらったり、助けてもらえる。

2 そんなとき、国は法律に合わせて、親の代わりのつもりで、その子が世話してもらえるようにしてほしい。

3 たとえば、だれかべつの人に親代わりになってもらうことや、イスラム法でいうカファーラや、それがいい場合には、どこかのいい施設に入れてもらうことも入る。そういう場合はたらいまわしにされないこと。大人になるまでずっと安心してくらせることが大切だよね。そして、その子がどういう中で育ってきたかとか、信じる神様、話す言葉のことなんかを十分に考えて、の上のことなんだけどさ。(ちなみにカファーラってのはね、お父さんお母さん、それに代わる人がいないひとりぼっちの子どもを、近くに住む人たちが“神の子”として力を合わせて育てるしくみのことなんだって)

            出典:『子どもによる子どものための子どもの権利条約』(小学館)

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参考2 前文より

  児童が、その人格の完全なかつ調和のとれた発達のため、家庭環境の下で幸福、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長すべきであることを認め、(以下略)

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1997年夏〜 アジア通貨危機が発生、韓国経済は大きな打撃を受ける。捨て子や浮浪児が発生し、大きな社会問題となった。

 

1998年 パク・ヨンスク女史は、家庭委託保護に賛同する仲間とともに韓国フォスターケア協会(Korean Foster Care Association, KFCA)を設立。社団法人に登録した。

「社団法人は会員による組織です。会員の積極的参加と義務の履行なしには運営できません。会員の構成は、収養両親(里親)を中心とする正会員と賛助会員の増加が求められます。同時に、会員の研修が非常に重要であり、会員相互間の“家庭委託に賛同する仲間”という意識を持った連帯が求められます。そして、行政との対等な協力関係と通じ、子どもの人権と家庭の健全な機能を回復する運動を目指します」(カン・スンウォン KFCA現会長)

 KFCAの設立と同時に、子どもに関する国の政策を変えるため、国会でのロビー活動、里親教育、里親制度(フォスターケア)の積極的な広報を行う。

 

2000年1月 児童福祉法を改正。家庭委託保護制度についての記述をより具体化した。

同年 韓国福祉財団は、江原道支部を中心として家庭委託保護事業のモデル事業を再開。江原道庁からの積極的な支援を受ける。(〜2002年)

 

2002年以降 家庭委託支援地域センターが相次いで設立される。地域センターは、子どもと里親をつなぐネットワークの基地となった。

 

2003年 政府は家庭委託保護制度を正式に制度化し、法律に明示。また、今後10年の間に、施設保護を段階的に排除する計画を立てた。その計画のもとで、子どもたちには里親家庭やグループホームのような、施設に代わる養育を割り当てられる予定。

  全国に家庭委託支援センターを設け、運営を民間に委託し始めた。

 

2004年 政府の保健福祉部が中央家庭委託支援センターを設立。中央と地方をつなぐ全国的なネットワークが完成。

 

2005年7月 改正児童福祉法で、家庭委託支援センターに対する役割と支援方法に関する内容が初めて明確に規定された。保護される子どものための養育費用の補助と、家庭委託支援センターの設置及び運営に関する条文も新しく入った。これにより、家庭委託保護制度がようやく法律上で明確に規定されることになった。

  国も地方自治体も、児童養護施設よりも家庭委託保護やグループホームなど、家庭的な小規模養育のほうがより子どもにふさわしい代理養育であると考えている。

 

 

注:グループホーム

 政府は、家庭委託の活性化とともに、共同生活家庭=グループホーム制度を実施している。

 1997年からモデル事業を実施、2003年2月に改正された児童福祉法にグループホームが施設の一種として追加された。

 グループホームは、成人保護者を含めて子ども5人が標準。多くとも7人以内とし、一般住宅地内で家庭のような雰囲気の中で子どもを保護する。短期保護および治療保護のグループホームの入居期間は1年が原則だが、1年単位で延長できる。

 

 

現在 中央家庭委託支援センターは1ヵ所、地域家庭委託支援センターは17ヵ所の計18ヵ所。家庭委託支援センターの運営は、非営利民間法人に委託されている。ちなみに、KFCAは中央センターと4ヵ所の地域センターを運営している。職員数は30名余。

 

*中央家庭委託支援センターの業務内容

  地域センターのサポート/効果的な家庭委託事業のためのネットワークづくり/家庭委託事業に関わる研究/研修/資料の発行(情報提供と広報)/カウンセラーに対する協力など

*地域家庭委託支援センターの主な役割

  家庭委託事業の広報/委託家庭の発掘/研修/個別指導/家庭委託を受けたい保護者と子どもの調査

 

 

 

2 家庭委託保護とは

 

A 定義

 

「家庭委託とは、保護を必要とする子どもを保護するに適した家庭に一定期間委託すること」(児童福祉法 第2条7号)

「家庭委託保護の最終的な目標は、家庭から離れた子どもを家庭的な雰囲気の中で健康に育つように保護し、できる限り早期に保護者に返すよう支援することである」(ホ・ナムスン)

 

 

B 対象児童

 

  18歳未満で、父母の疾病、家出、失職、収監、死亡、その他の事由によって保護が必要だと認められた者。(高校在学中の者は18歳以上)

  家庭委託保護の対象になる子どもは、保護者のいない子どもだけではない。保護者がいる場合でも、子どもの最上の利益のために必要と認定されれば、家庭委託保護の対象となる。児童虐待によって隔離保護が必要な子どもは、優先的に選定される。

 

 

C 委託家庭の分類

 

  代理養育家庭 = 父母以外の扶養義務者である祖父母か、外祖父母

  親戚家庭 = 扶養義務者ではない親戚

  一般家庭 = 血縁関係が全然ない家庭

 

  韓国は血縁関係を重視する社会なので、家庭委託においては、子どもと血縁関係のある祖父母や親戚の家で育つことを優先している。それができない場合、初めて一般家庭に保護を依頼する。

 

 

D 要保護児童の発生数

 

  1990年  5,721人 うち、施設に保護 3,734人 家庭での保護 1,987人

  1995年  4,576人          2,819人          977人

  2000年  9,085人          4,481人        4,040人

  2001年 10,586人          4,774人        4,938人

  2002年 10,057人          4,663人        4,721人

  2003年 10,222人          4,824人        4,898人

  2004年  9,393人          4,782人        4,321人

  2005年  9,420人          4,818人        4,602人

 

 (注)家庭での保護には、家庭委託保護、養子縁組保護、少年少女家長世帯の策定が含まれる。

 

  保護が必要な子どもが発生したとき、家庭委託保護より施設保護のほうがいまだに優先されているのが実情。2004年現在、家庭保護率は46%、施設保護率は50.9%。

  2004年に発生した要保護児童は9,393人。その半分以上にあたる4,782人が施設に保護された。養子縁組された子どもは2,100人、家庭委託された子どもは2,212人、少年少女家長世帯に分類された子どもは299人。(保健福祉部 2004年)

 

 

E 家庭に委託保護された子どもの数と委託家庭の世帯数

 

  2000年 代理養育     39人   (27世帯)

        親戚    1,584人(1,166世帯)

        一般      149人  (114世帯)

        合計    1,772人(1,307世帯)

 

  2001年 代理養育  1,170人  (810世帯)

        親戚    2,931人(2,195世帯)

        一般      324人  (241世帯)

        合計    4,425人(3,246世帯)

 

  2002年 代理養育  1,796人(1,249世帯)

        親戚    3,387人(2,453世帯)

        一般      394人  (283世帯)

        合計    5,577人(3,985世帯)

 

  2003年 代理養育  3,458人(2,315世帯)

        親戚    3,541人(2,563世帯)

        一般      566人  (435世帯)

        合計    7,565人(5,313世帯)

 

  2004年 代理養育  5,196人(3,450世帯)

        親戚    4,133人(3,057世帯)

        一般      869人  (662世帯)

        合計   10,198人(7,169世帯)

 

  2005年 代理養育  7,877人(5,295世帯)

        親戚    4,396人(3,253世帯)

        一般    1,042人  (802世帯)

        合計   13,315人(9,350世帯)       (保健福祉部統計)

 

  家庭に委託される子どもの数は年々増えている。少年少女家長世帯が祖父母や親戚での委託保護に転換したのが、増加の最大の理由。一般家庭委託は、保護を要する児童全体の7.8%に過ぎない。

  一般の里親(委託父母)のほか、児童関連の専門職(看護、相談、福祉)の経験を持つ専門性の高い里親をたくさん発掘し、虐待を受けた子どもを持続的に治療し、育てていくことが求められている。

  かつては血縁中心の家族制度や劣悪な居住環境などのために、韓国において家庭委託はできないとする意見が多かった。しかし、政府の積極的な支援があれば、一般の人たちが自分の家庭を開放して、子どもたちを預かることができることが示された。

 

 

F 里親の基準(一般委託家庭の場合)

 

・結婚して、子どもを育てた経験がある家庭を原則とする。

・夫婦はどちらも25歳以上であること。

・児童相談所、または隣人2名以上の推薦を受けること。

・委託家庭に適当かどうかの調査を受けること。

・必要な教育を履修すること。

・犯罪、家庭内暴力、児童虐待、アルコール、薬物中毒の前歴がない。

・預かる子どもを扶養するに十分な財産があること。

・預かる子どもに対する宗教の自由を認め、社会の一員となるにふさわしい養育と教育を与えること。

・家族が仲睦まじく、精神的、身体的に顕著な障害がないこと。

・実子、里子に関わらず、子どもの数が4人を超えないこと。

 

*委託期間は、里親と実親が相談して決定するが、平均2〜3年。

*家庭委託は子どもが生みの親のもとに帰ることが前提だが、生みの親が面会に来ないなど、子どもの養育に熱心ではない場合は、正式な養子縁組につながる場合もある。

 

 

G 支援事項

 

里親手当 子ども一人当たり、月7万ウォン(約9,000円)以上。

国民基礎生活保障法により、生計、医療、教育などの支援を受けることができる。

 

*里親家庭に来た子どもが「生活保護受給者」としての認定を受けると、月に約25万ウォン(約3万3,000円)と教育費、医療給付などが受けられる。ただ、子どもが受給者としての認定を受けるには、生みの親が生活保護受給者としての基準に適合する必要がある。そうでない場合には、生みの親が子どもの生活費等を支払わなければならない。

 しかし、虐待などが理由で強制的に親子分離をしている場合、生みの親から子どもの生計費や医療費を徴収することは不可能に近い。子どもが受給者としての認定を受けられない場合、子どもは施設に保護されることが多くなる(委託家庭に財政的負担がかかるため)。

⇒ 家庭委託をされた児童は、生みの親の経済力に関わらず、すべて生活保護の受給者にすべき

 

2006年3月から、委託児童と委託保護者1人を対象に傷害保険に加入する。

代理養育家庭、親戚委託家庭を対象に家賃を支援。

 

 

H 問題点(イ・ウンジュ氏の資料による)

 

・韓国では生みの親の親権が非常に大きい。子どもを家庭委託保護した場合でも、生みの親が求めれば、子どもは親元に帰らなければならないのが現実。

・委託父母(里親)には法的な権利が全然なく、預かっている子どもの通帳や旅券は作れない。

・幼いときに預かった子どもが生みの親を覚えていない場合、または、委託が長期になって家庭復帰が困難な場合、子どもに告知することが委託父母の大きな課題になっている。

・子どもが委託された後、その家庭での生活規則、習慣、食べ物の味になじむまでに大きな心理的負担が課せられる。

・委託児童の養育費以外、支援を受けられない家庭がまだまだ多い。子どもにかかる生活費など、政府の支援がもっと必要。

 

 

I 今後の課題(ホ・ナムスン氏の資料による)

 

  改正児童福祉法において、家庭委託に関するより具体的な記述が載ったが、今後、家庭委託は施設保護より優先する方法であることを児童福祉法に明記しなければならない。

  そのためには、以下の事柄も法律に明記する必要がある。

@ 7歳未満の子どもについては家庭委託を優先する。

A 短期間の委託の場合は、家庭委託を優先的に考慮する。

B すでに施設で暮らしている子どもたちについても、必要と認められる場合は家庭委託ができるようにする。

C 祖父母や親戚がいる子どもについては、代理養育または親戚での養育を推奨する。

 

 

◇参考データ

韓国の人口(2005年) 総人口 4,829万4,000人

             子どもの人口 1,168万9,000人

出生率 1.08(2006年)=世界でいちばん低い

 

○参考資料

1「韓国の家庭委託保護制度の歴史と現状」(ホ・ナムスン) 北海道の中兼正次(なかがねしょうじ)氏が翻訳。

2「韓国家庭委託保護事業の現状と課題」(チョウ・フンシク)北海道の中兼正次氏が翻訳。

3「大邱(テグ)市の家庭委託保護事業」(イ・ウンジュ)

4『子どもによる子どものための子どもの権利条約』(小学館)

5『赤ちゃんの値段』(高倉正樹) 講談社 2006年6月発行