アジアの家庭委託(里親制度)の現状と国際フォスターケア機構IFCOの役割

아시아 가정위탁의 상황과 IFCO 역할

The Situation of Foster Care of Asia and the Role of IFCO, by Dr. Kang  Soon-Won

 

2008, 9, 6  日韓フォスターケア(里親)フォーラム2008江別

IFCO理事、前韓国フォスターケア協会会長、

韓信大学校教育学部教授 姜淳媛(カン・スンウォン)

IFCO 이사, 한국수양부모협회 회장,

한신대학교 교수 강순원

(仮訳:北海道 中兼正次)

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 最近、子どもを取り巻く環境を整えようとの関心が世界的に高まっているが、それは韓国や日本では極端に低いと言われている。すなわち、少子化現象による中産階級家庭での子どもの過保護(小皇帝病)が一方でなされる反面、他の一方では親の適当な保護を受けられない子どもが、物理的虐待やネグレクトなどの極端な児童人権蹂躙環境におかれているのが実情である。特に、社会的に放置され易い環境におかれた貧困層の子どもを、どのように保護、管理、支援することが最善なのかに関する論議は、社会的に広がらず、児童のための活動家の間でのみ語られ代案が示されているというレベルに留まっていることは、遺憾である。今日の場では特に、親の保護を受けられない児童について、家庭委託(里親への委託)よりも児童施設を中心とする代案が主にとられているという点について、新しい方向をともに考えていきたい。

 

1、家庭委託の重要性

 

 世界的に家庭委託は、放置されるしかない児童に対する代案的養育活動(alternative care)と見なされている。一般的に、親と子で構成された家庭が望ましいと言われている。けれども、様々な理由のためにそれができない家庭、また最近家族の区分の社会的な考え方の変化によって、必ずしも親子で構成された家族だけを望ましい家族の単位とは呼ばれなくなってきている。

 東洋では昔から、大家族(拡大家族)の枠の中で、親と一緒に暮らせない児童に対する親族養育(Kinship Care)が慣行的であった。これは他の国、特にまだ家庭委託が制度化されていない国々においても、主な流れであると報告されている。しかし、親族への委託は一つの代案とはなりうるものの、それができない子どもの場合には、他の代案が必要である。こうした点から、親族への委託を含んで、一般家庭への委託の必要性と、そこから発生する問題点をあらかじめ整理して、各社会ごとの家庭委託活動の事例を通して、包括的な家庭委託のモデルが開発できれば、社会的な民主化の流れとともに、家庭委託が対案的な家庭文化運動として普及することができるであろう。

 けれども、家庭委託に対する社会的・文化的拒否感は、まだ相当強い。例えば韓国社会では、家父長制度が廃止されたとしても、血統に対する強い執着心と、社会的支援体制の未整備などのために、家庭委託はすなわち養子縁組と誤解されている。自分が食べていけないのに、他人の子どもの面倒までどうして苦労して引き受けるのかと、自分の家庭を中心に考える人が多いので、家庭委託はその概念さえも、まだあまり広報されていないのが実情である。しかも、急速な核家族化と都市化、アパート生活化のために、一つのアパートの中で異質な様々な構成員が共に生きていくことの困難は、非常に大きい。それによって、以前とは違って、玄関の内側で異なる家族が一緒に暮らさなければならないという家庭委託は、難しく感じられるものである。

 それにもかかわらず、様々な理由のために親と一緒に暮らせない子どもを、この社会がどうやって養育していくのが良いのか、一緒に検討していくべきである。

 私達の社会が急速に変化と発展する過程から、相変わらず子どもは、親の保護の下でその生活ができるように考えてきた。その結果、朝鮮戦争中に親を失った数多くの孤児達、そしてその後の婚外子などが、海外へ国際養子に行く流れが続いた。同時に、多くの子どもが大規模な児童保護施設である孤児院にゆだねられた。今でも、大規模の児童施設は婚外子の児童を保護する最も代表的な児童福祉機関として認知されているのが事実で、その予算規模が最も大きい。

すでに先進国では、大規模児童保護施設が持つ問題点を改善するため、それをグループホームや家庭委託に代替してきたが、我が国をはじめとするアジア諸国では、相変わらず放置児童に対しては児童養護施設での保護管理が主流な政策となっている。家庭委託が放置児童保護に対する完壁な対案であるとまでは言えないが、委託される里親(foster carer)に対する徹底的な研修と事後指導を行うのであれば、少なくとも家庭委託が大規模養護施設やグループホームよりも、より家庭親和的な望ましい児童保護政策であると言える。

 こうした点から家庭委託を、親の保護を受けられない子どもの人権を最善とする共同の努力と見るのであれば、すべての政策を、家庭委託の運営の中で子どもの最善の利益の観点によって成り立たせなければならない。

 

2、子どもの利益を最優先とする観点

 

 「子どもの権利条約」(International Convention of the Rights of Child1990)は、子どもに関する年令規定を18歳以下の児童、青少年と規定している。すべての政策決定過程と実施において、子ども、青少年の利益を最優先とすることを明示している。子ども、青少年の利益を最優先の利益とするという概念は、私達にとってとても新鮮なものである。通常、未成年として認識されている彼らに対する対策は、主に彼らは大人よりも劣った状態にあるものであると考え、成人である行政機関の担当者も機関の利益を守る観点に立っているのが一般的というのが現実である。今後も、子どもの利益を最優先とする観点を持つためには、すべての過程と手順において基本的な発想の転換をしなければならない。

 

 それにもかかわらず 要保護児童がぶつかる一般的な問題点を考えるとき、最善の代案が何かに対する意見の同意は可能と考えている。

 

 第一に、大部分の要保護児童は、一般的に、経済的危機のため、生存の基盤自体が脅威を受けている。したがって、物理的保護を行い得る代理機関が必要である。このようなレベルでは、一般的に、児童保護施設やグループホーム、家庭委託などのすべての機関での受入れは大きな問題にならない。ただ、大規模児童施設の場合、子どもに対する個別的な支援と保護が難しいという限界を持つため、ほとんどの先進諸国では、児童保護施設よりも家庭委託の方がより好まれている。

 第二に、ほとんどの要保護児童にとって、いろいろな理由のために家庭の社会的機能が損なわれており、どのような形態であっても、家庭親和的な環境を整えてあげることで、要保護児童が成長する過程において、「家族の中での会話」という自己機能を見て育つ必要がある。そのような点から、家庭委託は要保護児童の社会的統合のための社会化機能という点に、もっと焦点を当てる必要がある。兄弟間の付き合いや委託親・里親との対話、ひとつの家庭における意志の疎通など、社会化に必要ないろいろな役割と機能は、児童施設よりも委託家庭での方が、より一次的な触れ合いを通して形成できるからである。そのような点から、家庭委託は要保護児童に対する家庭親和的な代理保護を提供するという点で、「子どもが幸福な家庭を持つ権利」を間接的に保証してあげる措置である。

 第三に、すでに多くの報告書で指摘されているように、先進国、開発途上国において、児童施設における児童の人権侵害の事例が数多く発見されている。もちろん、児童の人権侵害の可能性と事例は、家庭委託での問題にもなりうる。しかし、一人の子どもが共同の生活空間にいて、個別的な差を認められないまま生活することの難しさの中で、一部の子どもは心理的困難を経験するのである。したがって、そのような問題を解決すれば、家庭委託が良い代案になると報告されている。家庭委託が出会う問題点を補完しさえすれば、家庭親和的な家庭委託は、子どもが持つ、身体的、精神的な保護を適切に受ける権利を保証してあげる最善の代案になりうるのではないか。

 

 

3、子どもの人権を最善にする家庭委託

 

 実際、異なる先進国においても、家庭委託が法的機能として制度化されたのは、それほど昔のことではない。ほとんど、20〜30年の歴史の中で制度が定着されてきたものである。特に1990年代に、多くの国々で家庭委託が体系化され、法的、社会的支援システムが整えられた。そして、ソーシャルワーカー(social worker、私達の場合社会福祉司)が担当した家庭委託を、児童福祉司(child welfare worker)あるいは家庭委託活動家(foster care worker, foster carer) =里親などと名付けられた専門家が中心となって、児童福祉の一領域を担っている。そこで、韓国のように、その活動がまだ弱い段階にあるうちに国の政策が構築された場合、少なくとも次のようないくつかの問題点について、考慮しておかなければならない。

 第一に、家庭委託は、一次的に子どもの権利条約第20条の精神を徹底的に受け入れるという前提において、すべての政策が構成されるべきである。子どもの利益を最優先とする観点から、親からの保護を一時的あるいは永久的に失った子どもは誰でも、国が提供する特別な保護と支援を受ける権利を持つ。このような保護と支援においては、法的基礎により、子どもの宗教的、文化的、人種的、言語的な差を尊重する原則の上から、代理養育機関が決められなければならない。

 第二に、家庭委託に関連して、一次的責任者(stakeholder)である委託親と委託児童の関係に、より大きな関心と支援が行われなければならない。何よりも地域センターは、分散している委託家庭が、共同の努力と相互扶助を行い得るよう、配慮しなければならない。特に、委託親が、体系的な研修を通して、家庭委託の分野での委託親の姿勢・態度及び家庭運営の原則などについて熟知できるようにしなければならない。例えばアメリカのウィスコンシン州の場合、委託親は最低36時間の研修を受けて資格を得た場合にのみ、家庭委託活動を行う事ができる。また、委託家庭の適切な規模と経済活動の程度などを考慮して、委託家庭を選ぶようになっている。このような諸々の規定を、それぞれの国の状況に合うよう調整して、要保護児童が委託家庭で再び家庭を喪失することがないよう、最善の政策を樹立し、支援を行うべきである。

 第三に、二次的な責任を持つ機関である家庭委託支援センターの社会福祉司、担当公務員、そして中央省庁の政策担当者など、関連する責任者に、一次的研修と体系的な指導を行い得るようなシステムを構築しなければならない。家庭委託活動に反対する数多くの児童活動家の発想の転換がないまま、家庭委託事業を担当するとすれば、それはすべてにおいて不幸なことである。したがって、児童の人権を守る運動を行う市民団体や政府機関とともに、家庭委託活動は望ましい要保護児童の養育方法であるとPRし、努力するネットワークを整え、相互にモニタリングできるようにするべきである。そうして、私達の社会を民主化する対案的な家庭文化運動として、家庭委託活動を展開していくべきである。

 最後に、韓国のみならず、ほとんどのアジア諸国において、家庭委託活動に対する文化的な拒否反応が相当強いことについて述べる。親の保護を失った子どもに家庭親和的な環境を与えるためのアジア地域の連帯組織の必要性は非常に高い。国別の支援体制が弱く、文化的拒否反応があり、児童施設中心の保護体制を強いアジア諸国において、家庭委託は、個人的な努力と国ごとの努力だけでは不十分である。アジア地域での国際的協力体制により、アジア諸国の家庭委託の地位を高めるだけではなく、相互の互恵的関係の中で、持続的に関係の質を改善して行くことができる。

 

4、アジアの家庭委託の現状

 

 今のところ、アジア諸国の家庭委託についての客観的な情報も資料も整えられていない。国際フォスターケア機構IFCO(イフコ)では、ヨーロッパやアフリカなどでは、次第に、地域組織(regional organization)が整備されてきており、定期的に研修会や地域大会を開催しているが、アジア地域ではまだそうなっていない状況にある。2006年、韓国でアジア大会を一度開いたが、その後 IFCO理事を中心にアジア大会に関する議論を行ったものの、続く大会を計画できていない状態である。韓国で開かれたアジア大会で発表された、アジアの国別資料によると、児童施設での養育が主流であり、家庭委託はほとんど紹介もされていないか、されていても国によって奨励のされ方が異なる。

 依然として、ミャンマーを初めとして、タイなど多くのアジア諸国には、一次的な生存権すら保証されない状態に置かれた児童が数多い。国境付近の難民の子どもの問題は深刻である。特に中国には、「一人っ子政策」(one child policy)によって、戸籍を持たない「闇っ子」が相当数存在することが知られているが、中国政府はこれを公式に否定している。内戦による障害児と孤児が相当数存在する現実から、アジアの子どもに・対する国際的関心と支援が、何よりも待たれる。一日1ドル以下の生活に、・数多くのアジアの児童が置かれている問題は、・・矛盾する構造である。このように低い経済成長レベルと政治的不安定による内戦、そして社会的セーフティネットの未整備によって、児童は放置され、要保護施設の児童が大規模施設で集団で収容され管理されているのが、貧しいアジア諸国の状況である。したがって、このように困難状況を打開していかなければならない。

 

5、国際フォスターケア機構IFCOの役割

 

 IFCO1981年に設立された、家庭委託(里子養育)の国際的連帯組織である。当時多くの主導的な役割を担っていたオランダ、イギリスなどの先進ヨーロッパ諸国が先頭に立って、委託児童が自分のアイデンティティを失わないまま、家庭で幸福な人生を楽しむ権利を保証するという趣旨で、家庭委託をPRして、発展を図って、里親同士のネットワークを活発にして、人生の質を向上するというのが IFCOの目的である。それから、創立の趣旨に沿って2年ごとに開かれる世界大会を通して、国家間、個人間、あるいは機関の間で情報と知識を交換し、関係する当事者達に対する研修を組織し、支援する事業を展開してきた。研究と出版を通して、家庭委託のレベルを高めようと努力してきた。現在 IFCOは、国連UN 子どもの権利委員会CRCの委員の一つとして、児童の権利に関する牽制と監視と支援のための役割を与えられている。 www.ifco.org のサイトを見れば、IFCOの多様な活動と研修資料、そして2009年にアイルランドのダブリンで開かれる第19回世界大会に関する案内を読むことができる。

 アジアからは、現在3名の理事が選任されており、彼らが中心となってアジアの地域組織を発展させるよう期待されてはいるが、これまでのところ、あまり進展していないのが実情である。アジア諸国の国家の活性化、そして日本や韓国など、いわゆる経済的な先進国に入った国でさえ、家庭委託の地位が低いため、アジアの地域組織の枠組みを作ることは容易でない。したがって、日本と韓国が家庭委託の活性化のため、アジア地域における歴史的な課題をともに改革して行くことを希望したい。

 

仮訳者からの参考資料:

 ○「子どもの権利条約」

    1990年発効、韓国は同年加入(署名の手続きをしないで、すぐに条約を受け入れること)。1991年 署名をして批准。日本は1994年世界で158番目に批准。 「子どもの権利条約」の柱=@生きる権利、A守られる権利、B育つ権利、C参加する権利。http://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_rig.html

 ○「子どもの権利条約」第20

    1. 一時的若しくは恒久的にその家庭環境を奪われた児童又は児童自身の最善の利益にかんがみその家庭環境にとどまることが認められない児童は、国が与える特別の保護及び援助を受ける権利を有する。

    2. 締約国は、自国の国内法に従い、1の児童のための代替的な監護を確保する。

    3. 2 の監護には、特に、里親委託、イスラム法のカファーラ、養子縁組又は必要な場合には児童の監護のための適当な施設への収容を含むことができる。解決策の検討に当たっては、児童の養育において継続性が望ましいこと並びに児童の種族的、宗教的、文化的及び言語的な背景について、十分な考慮を払うものとする。