韓国(大邱=テグ)の家庭委託保護事業
The Foster Care of Daegoo, by Ms. Kim Young-Ja
2008, 9, 6 日韓フォスターケア(里親)フォーラム2008江別
大邱(テグ)広域市家庭委託支援センター 所長 金英子(キム・ヨンジャ)
대구광역시가정위탁지원센터 소장 김 영자
(仮訳:北海道 中兼正次)
子どもはすべて私達を未来へと導く貴重な資源であり、大切な存在である。児童は安定した家庭の中で適切な養育と保護を受けてこそ健全に育つ。そのため、家庭と社会、国のレベルで、健全な環境を用意しなければならない。
しかし最近、離婚率の上昇と家庭解体が加速化しており、児童の保護に関する問題がより大きくなってきているのが現実である。韓国は2005年、児童福祉法の全面的改正を通じて、家庭委託についての法的根拠を整備、政府主導の積極的な家庭委託活動を実施するようになった。
1、家庭委託の背景と発展
韓国は、1950年代の朝鮮戦争以後の社会的条件の中で、要保護児童が発生した場合、ほとんど施設に入所させて保護してきた。
しかし、1991年に国連子どもの権利条約に加入した韓国は、2000年以降、要保護児童に対する保護方法を、地域社会での保護として施設保護をもとにしながらも、可能であれば家庭での養育方法に転換するようになった。
1990年に、家庭委託事業がソウル、釜山、大田の3箇所の社会福祉事務所がモデル事業として実施されて以来、2003年までに、17箇所の家庭委託支援センターが設置された。2004年に中央家庭委託支援センターが設置され、その中心的な役割を果たすようになった。
韓国の家庭委託保護事業が強化されてから、5年が経ち、家庭委託保護事業を利用する委託家庭、委託児童の必要性に則したプログラムの開発と、児童の観点で児童の利益を最優先とする家庭委託保護を、発展させようと努力している。
2、家庭委託の類型
家庭委託の類型は、一般養育家庭委託、代理養育家庭委託、親戚家庭委託に区分される。一般家庭委託は血縁関系が全くない里親による家庭委託であり、代理養育家庭委託は親祖父母、外祖父母による養育であり、親戚家庭委託は親祖父母、外祖父母を除いた親戚による養育をいう。
<表1> 韓国の類型別家庭委託児童の現況 (韓国保健福祉部統計)
年度 |
計 |
代理委託 |
親戚委託 |
一般養育委託 |
||||
|
所帯数 |
児童数 |
所帯数 |
児童数 |
所帯数 |
児童数 |
所帯数 |
児童数 |
2000 |
1,307 |
1,772 |
27 |
39 |
1,166 |
1,584 |
114 |
149 |
2001 |
3,246 |
4,425 |
810 |
1,170 |
2,195 |
2,931 |
241 |
324 |
2002 |
3,985 |
5,577 |
1,249 |
1,796 |
2,453 |
3,387 |
283 |
394 |
2003 |
5,313 |
7,565 |
2,315 |
3,458 |
2,563 |
3,541 |
435 |
566 |
2004 |
7,169 |
10,198 |
3,450 |
5,196 |
3,057 |
4,133 |
662 |
869 |
2005 |
9,350 |
13,315 |
5,295 |
7,877 |
3,253 |
4,296 |
802 |
1,042 |
2006 |
10,186 |
14,434 |
6,244 |
9,190 |
3,014 |
4,065 |
928 |
1,179 |
2007 |
11,622 |
16,200 |
6,975 |
10,112 |
3,651 |
4,850 |
996 |
1,238 |
3、委託家庭の選定基準
1) 基本要件(親戚及び一般共通)
・ 委託を受けようとする家庭及びその家族に、犯罪、家庭内暴力、児童虐待、アルコール・薬物中毒などの前歴がないこと
・ 委託家庭になることの適否について、家庭調査時に隣人を通して確認
・ 家庭委託に必要な研修の履修(ただし、代理委託及び親戚委託の場合、家庭委託後 6ヶ月以内に研修を受けることでも良い)
2) 一般養育による委託保護
・ 委託児童を養育するのに十分な財産があること(経済的な目的ではない志望の動機と委託児童の養育を決定したことに対する確認が必要)
・ 委託児童の宗教の自由を認め、社会の一員としてそれに応じた養育と教育を行えること
・ 公立の児童相談所または近隣住民2名以上の推薦をもらうこと
・ 委託を受ける者の年齢が25才以上であること(親の場合、親のすべてが該当)
・ 委託家庭の児童数は、実子を含んで4人を超えないこと(18才以上の子どもは除く)
・ 結婚して子供を養育した経験がある家庭を原則とする
4、支援の内容
1)養育手当て及び国民基礎生活保障法(生活保護法)による生計費などの支給
(訳注:2008,9,3現在で1ウォン=0.094492円、1円=10.569008ウォン)
・ 養育手当ての支給 :児童一人あたり月70,000ウォン以上 (訳注 6,614円)
・ 国民基礎生活(生活保護費)受給者として認定を受け、生計、医療、教育等の該当手当てを、個人または世帯単位に支給
2)家庭委託児童の傷害保険料支給
・ 委託児童の手術、入院費等支給
・ 保険料は100,000ウォン/年 (訳注 9,449円)
3)代理・親戚委託家庭への貸付金(4千〜5千万ウォン)の支援
4)児童の発達(?)口座(政府3万ウォン+委託家庭3万ウォン)支給(訳注 2,835+2,835円)
5、大邱(テグ)の家庭委託
大邱は韓国の16市の一つで、人口252万人、面積は884.4平方キロメートル、7つの区と1つの郡で構成されている。
家庭委託児童数は、2008年6月末現在で、合計288人、一般委託児童は57人、代理委託児童は128人、親戚委託児童は103人である。
児童福祉施設は25箇所あり、1,080名の児童が保護されている。家庭委託児童数は施設保護児童数に比べて少ない。このことから、要保護児童が発生した場合、依然として家庭内での保護よりも施設保護が優先的に検討されているという事実が分かる。
<表2> 大邱の家庭委託児童数
年度 |
児童数合計 |
代理委託 |
親姻戚委託 |
一般委託 |
2004 |
125 |
30 |
74 |
21 |
2005 |
181 |
73 |
71 |
37 |
2006 |
221 |
90 |
76 |
55 |
2007 |
269 |
118 |
97 |
54 |
2008年6月 |
288 |
128 |
103 |
57 |
そして <表2>で分かるように、2003年の家庭委託支援センター設置依頼、着実に家庭委託児童数が増えているが、その理由は次のように様々である。
家庭委託保護についての積極的な広報活動
少年少女家庭世帯から家庭委託への転換
経済的貧困による親の家出と行方不明
親の離婚
親の死亡(自殺または事故死) など
6、委託親(里親)の養成研修及び養育方法
まず、委託親(里親)になるためには、各地域家の庭委託支援センターでの研修として、委託養育についての理解、委託養育の手順、委託児童の特性、良い親になるための役割などを学ぶべきであり、各センターでは、国際フォスターケア機構IFCO(イフコ)が奨める家族ルール作りを含め、委託親の研修を実施する。
委託親達の養育方法は、各家庭のルールと養育方法によって異なるはずであるが、児童を愛する心は同じであり、実子とまったく同じように養育している。
委託児童がかわいそうだから可愛がるのが理想的な委託親ではない。日常的に普通の家庭の暖かい雰囲気を見せてあげ、委託児童が体験できるように、児童の観点で養育を行うべきである。
7、家庭委託保護事業の問題点と活性化
2005年の韓国保健福祉部児童福祉事業案内によって、韓国の児童福祉政策の方向を見ると、家庭委託保護事業の目標は、児童の権利を延ばすことである。児童が家庭と地域社会の中で幸せに生活し、尊重され、安全に成長できる社会を実現するために、「要保護児童のため、家庭と社会の保護システムを強化する」という、次のような課題に移行した。
第一、国内入養(養子縁組)の活性化(訳注:養子縁組の「入養」に対し、里親への委託は「収養))
第二、家庭委託制度の法制化の推進
第三、共同生活家庭(里親ファミリーホーム)の拡大
第四、児童福祉施設の機能の多様化
こうして、家庭委託保護の措置条項と、家庭委託支援センターの設置と業務に関する基本的条項が新設され、家庭委託保護剤度の法的根拠が用意された。それにもかかわらず、細部の法律規定が未整備で、児童を委託保護する委託家庭に対する制度的支援が不充分である。家庭委託保護事業についての社会的条件と認識が不足している。家庭委託保護事業を担当する公務員の認識不足、家庭委託支援センターの人的資源の不足など、家庭委託保護事業を拡大するには、多くの困難を抱えている。
家庭委託の活性化のためには、次のような点すべての検討が必要である。
1) 要保護児童の措置については、家庭委託を優先すること
2) 委託児童の自立のための支援体制の確立、委託児童の学習補助費の支給、委託終了児童の自立支援金の支給など
3) 家庭機能の強化のための支援体制の確立
4) 委託家庭支援体制の確立
5) 家庭委託支援センターの役割の実施機能の強化のための段階的人的増加
6) 家庭委託支援センター従事者の処遇改善及び家庭委託保護事業の積極的な広報